アンダースロー

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'''アンダースロー'''とは、[[野球]]の[[投手]]の[[投法]]のひとつ。'''下手投げ'''と呼ばれる。投手が[[ボール (野球)#用具としてのボール|ボール]]を[[リリース]]する際に身体が沈むこと、またはボールが下から上に上がってくることから、'''サブマリン投法'''とも呼ばれる。「アンダースロー」という呼称は[[和製英語]]であり、[[英語]]では'''''submarine'''''と呼ぶのが一般的である。 [[ファイル:Bradford delivery.jpg|thumb|300px|right|アンダースローで投球する[[チャド・ブラッドフォード]]]] ==概要== [[File:Shunsuke Watanabe 2010 (2).JPG|thumb|right|250px|[[渡辺俊介]]は特に低いリリースポイントで投球する]] アンダースローとは、投手の手からボールがリリースされるときに、ボールを持っている[[腕]]が水平を下回る角度にある投法のことである。ワインドアップまたはセットポジションから急激に重心を下降させ<ref name="T1">高崎 (p.5)</ref>、投球腕を水平を下回る角度にまで下げた後、腕をしならせて投げる<ref>渡辺 (2006, pp.81 - 84)</ref>。[[オーバースロー]]とは違う投球[[リズム]]、投球動作であるため、アンダースローを長く続けている投手はオーバースローで投げることが難しくなる場合がある。一方で、[[肩]]や[[肘]]を痛めた投手がアンダースローに転向する例も多い。なお、[[杉浦忠]]や[[永射保]]など、[[サイドスロー]]に近い腕の角度で投球する投手もいる。 === 長所 === スピードのある[[速球]]を投げることは難しいが、低いリリースポイントから浮き上がるような軌道でボールが投球されるため、[[打者]]を幻惑することが出来る<ref>渡辺 (2006, pp.45 - 52)</ref><ref>渡辺 (2006, p.155)</ref>。2008年に[[マサチューセッツ工科大学]]のサル・バクサムサ教授がオーバーハンド投手の[[ジョー・ブラントン]]と、アンダースロー投手の[[ブラッド・ジーグラー]]の速球の投球軌道(球筋)を比較したところ、ブラントンの投球はリリースポイントからキャッチャーミットに到達するまで約1.3メートル落下したのに対し、ジーグラーの投球はリリースポイントから約30センチメートルしか落下しなかった<ref name="Baxamusa">{{Cite web |last= Baxamusa |first=Sal |author= |authorlink= |coauthors= |date= 2008-08-02|url= http://www.hardballtimes.com/main/article/brad-ziegler-al-rookie-of-the-year/|title= Brad Ziegler, AL Rookie of the Year|format= |pages= |publisher= The Hardball Times|language= 英語|accessdate=2010-10-26 }}</ref>。バクサムサはこの投球軌道の違いが打者を幻惑する要因となっていると指摘している<ref name="Baxamusa"/>。また、右打者に対する右投げ、左打者に対する[[サウスポー|左投げ]]ではより角度のある投球となるため、これを苦手とする打者もいる<ref>渡辺 (2006, pp.204 - 205)</ref>。また、[[シンカー・スクリューボール|シンカーやスクリューボール]]、[[カーブ (球種)|カーブ]]<!-->(以下の球種への言及ある出典がないためコメントアウト)[[スライダー (球種)|スライダー]]、[[シュート (球種)|シュート]]<-->などの球種は一旦浮き上がってから曲がり落ちる特有の軌道を描く<ref name="kyusyu">渡辺 (2006, pp.164 - 165)</ref>。さらに、アンダースロー投手は絶対数が少なく、アンダースローの軌道を完全に再現できる[[ピッチングマシン]]も少ないため、打者はこれを打ち返す練習をすることが難しい<ref>渡辺 (2006, pp.155 - 156)</ref>。 === 短所 === 欠点のひとつは、[[走者]]を背負った際の[[クイックモーション]]が難しく、[[盗塁]]を企図されやすいことである<ref name="w2">渡辺 (2006, pp.71 - 73)</ref>。しかし[[渡辺俊介]]は、フォームの無駄を減らすことと[[捕手]]との協力で対応可能としている<ref name="w2"/>。また、この投法をする投手は[[死球#与死球|与死球]]が多いことがある{{要出典|date=2011年10月}}。これはアンダースローによる投球の軌道は独特であるため、打者側が反応できず回避動作が遅れることも一因である。[[1920年]][[8月16日]]に[[ニューヨーク]]の[[ポロ・グラウンズ]]で行われた試合において、[[クリーブランド・インディアンス]]の[[レイ・チャップマン]]が[[ニューヨーク・ヤンキース]]のアンダースロー投手[[カール・メイズ]]から[[頭部]]に受けた死球のために、翌日未明に死亡するという[[事故]]が発生している<ref>出野 (2004年, p.513)</ref>。また、この投法で[[フォークボール]]を投げることは難しい<ref name="kyusyu"/>。ただし、落ちる球としてはシンカーなどで代用が可能である。さらに、アンダースローを指導できる指導者は少なく、指導法も未確立である<ref>高崎 (p.14)</ref>。 === 故障について === アンダースローは全身を使わないと投げられないため、肩や肘に疲労が集中しない<ref name="w1">渡辺 (2006, p.91 - 93)</ref>。そのため[[山田久志]]や渡辺、[[スティーブ・リード]] ([[:en:Steve Reed (baseball)|en]]) はアンダースローは[[スポーツ障害|故障]]が少ない投法であると証言している<ref name="w1"/><ref name="BD"/>。また、アンダースロー投手には「[[先発投手|先発]][[完投]]型」が多い。しかし、[[股関節]]や[[膝関節]]をうまく使うことが出来ず、[[胴体|体幹]]のみを極端に屈曲させるフォームになってしまうと、[[前鋸筋]][[筋膜炎]]を起こしたり、ひどい場合には[[肋骨]]に[[ひび]]が入ったり[[疲労骨折]]することもある<ref name="T1"/><ref name="w1"/>。 == 歴史 == [[File:Baseball1866.JPG|thumb|300px|1866年にエリシアン・フィールズで行われた[[ニューヨーク・ミューチュアルズ|ミューチュアル・クラブ]]対[[ブルックリン・アトランティックス|アトランティック・クラブ]]の試合を描いた[[リトグラフ]]"The American National Game of Baseball"。アンダーハンドで投げる投手が描かれている。]] [[1845年]]に[[アレクサンダー・カートライト]]がルールを整備した初期の野球では、投手の投球は全てアンダーハンドで行われていた<ref>佐山 (2007, p.7)</ref>。当時のルールでは「ピッチ(pitch=放ること)」だけが許され、「スロー(throw=投じること)」が禁止されていたため<ref name="Uchida">内田 (2007, pp.69 - 75)</ref>、その投法は今で言う[[ソフトボール|スローピッチ・ソフトボール]]投手の投法に近いものであった<ref name="Uchida"/>。 しかし、[[1860年]]以降[[ジム・クレイトン]]などの投手がフォームに改良を加え<ref name="Uchida"/><ref name="T2">高崎 (p.1)</ref>、速球派の投手が増加したことからそのルールは徐々に死文化して行き<ref name="Uchida"/>、[[1872年]]にはルールが改正され、アンダーハンドでも[[手首]]のスナップを使って投げることが正式に認められた<ref>佐山 (2003年, p.41)</ref>。 その後、アンダースローは[[1882年]]に[[サイドスロー|サイドハンドピッチ]]が、[[1884年]]に[[オーバースロー|オーバーハンドピッチ]]がそれぞれ更なる投球ルール改正によって解禁されるまでは主流の投法であった<ref name="T2"/>。また、野球の球種の内、カーブ、[[チェンジアップ]]を初めて投げたのはアンダースロー投手(カーブは[[キャンディ・カミングス]]、チェンジアップは[[ハリー・ライト]])である<ref name="Uchida"/>。 日本に野球が伝来したのは投球ルール改正前の[[1871年]]、[[お雇い外国人]]の[[ホーレス・ウィルソン]]によってである<ref>佐山 (2003, pp.71 - 75)</ref>。さらに[[1908年]][[11月22日]]に行われた[[メジャーリーグベースボール]]選抜チーム対[[早稲田大学野球部]]の試合で[[始球式]]を行った[[大隈重信]]の投球はアンダースローであった<ref>佐山 (2005, p.27)</ref>。NPBにおいて最初に活躍したアンダースロー投手は[[1936年]]に[[阪急軍]]に入団した[[重松通雄]]である。重松と[[1949年]]に[[南海ホークス]]に入団した[[武末悉昌]]には共に「アンダースローの元祖」という渾名が付いている。 前述の通り1920年にカール・メイズが死球による死亡事故を起こすと、アメリカ合衆国ではアンダースローは危険な投法であるという認識が広がり、アンダースロー投手は減少していった<ref>高崎 (p.2)</ref>。[[1972年]](日本では[[1976年]])に、[[スピードガン]]が野球界に導入され始めると、投手の投球術よりも球速が注目されるようになり<ref>Posnanski, Joe,''"You can't always judge a pitcher by his fastball"'' "The Kansas City Star", July 15, 2007.[http://www.drmikemarshall.com/2007KansasCityStar2.html]</ref>、球速の出にくいアンダースロー投法を採用する投手の減少傾向がより進んだ<ref name="BD">Doyle (2000, p.54) </ref>。 == 主なアンダースロー投手 == ===引退投手=== {{ローカルルール|section=1}} ==== MLB ==== *[[ジム・クレイトン]] *[[エイサ・ブレイナード]]※以上プロ野球リーグ成立前 *[[ビリー・ラインズ]]([[:en:Billy Rhines|en]])<ref>Rhodes (2007, p.43)</ref> *[[カール・メイズ]]([[:en:Carl Mays|en]]) *[[エルデン・オーカー]]([[:en:Elden Auker|en]]) *[[テッド・アバーナシー]] *[[ケント・テカルヴィ]]([[:en:Kent Tekulve|en]]) *[[ダン・クイゼンベリー]] *[[マーク・アイクホーン]] *[[マイク・マイヤーズ (左投手)|マイク・マイヤーズ]]※左投げ *[[チャド・ブラッドフォード]] *[[ブライアン・シャウス]]※左投げ ==== 日本 ==== <!--50音順--> * [[会田照夫]]、[[会田有志]]※親子 * [[秋山登]] * [[足立光宏]] * [[今西錬太郎]] * [[上田次朗]] * [[小川健太郎]] * [[亀田忠]] * [[金城基泰]] * [[坂井勝二]] * [[佐々木宏一郎]] * [[重松通雄]] * [[杉浦忠]] * [[高橋直樹 (野球)|高橋直樹]] * [[武末悉昌]] * [[武智文雄]] (田中文雄) * [[近田豊年]]※左右投げのうち右投げのみ(公式戦では披露できず) * [[仁科時成]] * [[松沼博久]] * [[三沢淳]] * [[皆川睦雄]] * [[森滝義巳]] * [[山下律夫]] * [[山田久志]] * [[若生忠男]] * [[渡辺秀武]] ==== 台湾 ==== *[[廖于誠]] ===現役投手=== ==== MLB ==== *[[ブラッド・ジーグラー]] *[[ジョー・スミス (投手)|ジョー・スミス]] <!--*[[クラ・メレディス]]--><!-- サイドスロー。[[ノート:アンダースロー]]参照 --> *[[ダレン・オデイ]] ==== 日本 ==== *[[渡辺俊介]] *[[牧田和久]] *[[山中浩史]] *[[三浦翔太]] ==== 中国 ==== *[[李帥]] ==== 韓国 ==== *[[鄭大炫]] *[[李圭大]] *[[金炳賢]] === 架空のアンダースロー投手 === * [[里中智]] - 漫画『[[ドカベン]]』シリーズ * [[水原勇気]]※左投げ 女性選手 - 漫画『[[野球狂の詩]]』 * 黒沢影人、巳土里長太郎 - 漫画『[[新約「巨人の星」花形]]』 * 北大路輝太郎※左投げ - 漫画『[[最強!都立あおい坂高校野球部]]』 * [[早川あおい]]※女性選手 - ゲーム『[[実況パワフルプロ野球]]』シリーズ * トモロー・ベルトリー - 漫画『[[TOMORROW]]』 * 山田太一 - 漫画『[[ペナントレース やまだたいちの奇蹟]]』 * 吉田 均 - 漫画『[[ONE OUTS]]』 * [[星飛雄馬]]※左投げ - 漫画『[[巨人の星]]』(大リーグボール3号投球時)  * 神童仁志※左投げ - 漫画『[[キャットルーキー]]』 * 三ヶ月心 - 漫画『[[キャットルーキー]]』(ウィザード・ライザー投球時) * 子津忠之介 - 漫画『[[Mr.FULLSWING]]』 == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == *渡辺俊介『アンダースロー論』 光文社、2006年、ISBN 4334033717 *高崎恭輔『[http://ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/1735/1/takasaki_069717.pdf アンダースロー投法の動作分析 - 経験者と未経験者の比較 -]』 大阪教育大学大学院教育学研究科 *出野哲也『メジャー・リーグ人名図鑑』彩流社、2004年 *[[佐山和夫]]『野球とシェイクスピアと』 論創社、2007年、ISBN: 978-4846003449 *佐山和夫『野球とアンパン』講談社現代新書、2003年 ISBN:061496662 *佐山和夫『日米野球裏面史』[[NHK出版]]、2005年 *[[内田隆三]]『ベースボールの夢 - アメリカ人は何をはじめたのか』岩波新書、2007年 *Doyle, Al ''[http://books.google.co.jp/books?id=YisDAAAAMBAJ&pg=PA50&lpg=PA50&dq=Baseball+Digest+throwing+from+down+under&source=bl&ots=WFx_DL6mtB&sig=j6pJH1198D7O20SXl-OcqRbXjJQ&hl=ja&ei=JiwGS7vVJMuWkAWaga3fCQ&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=5&ved=0CCAQ6AEwBA#v=onepage&q=Baseball%20Digest%20throwing%20from%20down%20under&f=false "Throwing From Down Under"]'' ''"Baseball Digest"'' 2000, 11, Lakeside Publishing Co.ISSN 0005-609X *Rhodes, Greg''Cincinnati Reds Hall of Fame Highlights'', Clerisy Press, 2007, ISBN 1578603005. == 関連項目 == * [[ライズボール]] * [[ジャイロボール]] * [[サイドスロー]] {{DEFAULTSORT:あんたあすろう}} [[Category:野球の投球フォーム]] [[Category:和製英語]]