東芝クレーマー事件

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東芝クレーマー事件(とうしばクレーマーじけん)は、1999年に起きた東芝のクレーム処理に関する事件。「東芝ユーザーサポート事件(問題)」と称されることもある。マスメディアを介さずとも一般人がインターネットを使って世論を喚起できることを示した[1]。一方、企業側にとってはクレーマーが世界に向けて情報を発信できるというインターネットの時代におけるクレーマー対応の大きな教訓となった。

表面化までのあらまし

1999年、東芝のビデオテープレコーダを購入したユーザー「A」が購入直後に製品の点検・修理を依頼をしたところ、勝手に改造されたうえに、購入した販売店、東芝系列のサービスマン、そして東芝本社に交渉相手が変わったあげく、東芝の「渉外管理室」担当者が暴言を吐くなど暴力団まがいの応対を行ったとして、経緯や電話応答の録音音声を「東芝のアフターサービスについて(修理を依頼し、東芝本社社員から暴言を浴びるまで)」[2]と題する自身のウェブサイトにてリアルオーディオ形式の配信で公開した。

1999年当時はまだ常時接続は試験サービスしか提供されておらず、ダイアルアップの従量制しかないインターネットで接続しているユーザーが多数派だったため、当初はネットにおいてのみ認知されていた。その後、徐々に問題のウェブサイトへのアクセス数は増えるが、急増したのは、東芝が仮処分申請を出したのを受けて旧来型の大手マスコミが取り上げ世間に知らしめたためである[3]

一気にアクセス数が急増し、1999年秋に閉鎖されるまでの間には1000万アクセスを超えた。熱心なインターネットユーザー以外にも、大手マスコミを通じて事件のことが周知され、東芝不買運動へと発展した。

特に東芝側担当者のこの発言は頻繁に取り上げられ、「クレーマー」という言葉を広めるきっかけにもなった[4]

また東芝はユーザーが対話に応じないために司法判断に委ねるとして、ウェブページの一部差止めを求める仮処分を申請したが、司法的手段を敬遠する日本的風潮と相まって更に批判が強まり、不買運動を加速させた。一方、解決の見えない要求を続ける同ユーザーに対する非難も多く寄せられたが、最初はユーザーに好意的な報道を行ったマスメディアがほとんどで、ユーザーに批判的な報道を行ったのは週刊文春のみであった。当初は週刊文春も好意的な報道をしていたものの、東芝の当時の副社長とユーザーがマスコミ同席の元で対談した結果が物別れに終わった直後、「東芝に謝罪させた男は名うての「苦情屋」(クレーマー)だった!」と題する記事を掲載した『週刊文春』1999年8月26日号の記事が一連の報道の締めくくりとなり、その後の続報がほとんどなくなってしまう。文春は、このユーザーがこれまでも他の製品で販売店に様々なクレームを付けており、総額253万円の返金を行わせたと報道したが、問題のユーザーは明確にこれを否定している。記事中で”返品の対象とされた販売店”も事件当時から記事の内容を否定しており、事件から9年目となる2008年初頭に週刊ダイヤモンドクレームに関する特集記事を組んだ際にも、記者からの販売店に対する問い合わせに対して「過去からお買い上げいただいているよいお客様で、返品・交換を繰り返していたという報告は受けていない」と回答している[4]よって当時の週刊文春と2008年の週刊ダイヤモンドの記事は真っ向から異なる物となっている。

ユーザーは2000年に『週刊文春』を名誉毀損に福岡地方検察庁刑事告訴したが、その2年半後に東京地方検察庁不起訴の判断を下している[4]

不具合の状態と双方の考え

この件で問題になったビデオデッキの不具合は、ユーザーと東芝の主張を総合すると「ユーザーが購入した機種のS-VHS簡易再生機能を有する東芝ビデオデッキ」で、「他社製のビデオデッキで録画したユーザー所有のS-VHSテープ(FM周波数がS-VHSの規格外)」を再生すると、「画面全体に白い横引きノイズが発生し続ける」というものであった。

これに対して、ユーザーは「製品の初期不良かどうかを確認する」ことを求め、東芝側は「ノイズの発生原因はユーザー所有のテープであり、ビデオデッキ本体に何ら問題はない」、つまり「仕様どおりの製品であり、初期不良ではない」と考えた。

東芝側は改修を加えたが、この改修にユーザーの了解を得ていなかったため泥沼化した。

ユーザー側の視点から

ユーザーは「S-VHSで録画したビデオテープを再生すると、画面全体に白い横引きノイズが発生し続ける。製品の初期不良なら販売店で新品と交換してもらう。原因を調べて欲しい」という要求を行った。これに対して東芝側がユーザーの了解なしに改修を加えたことが問題の発端である。

当初、ユーザー側は東芝のサービス子会社に修理依頼をかけたがサービス子会社からの「製品交換が必要になった場合のために販売店経由で修理依頼をかけ直してほしい」という指示に従い、購入した販売店経由で東芝のサービス部門に修理依頼をし直した。そして、ユーザーの自宅を訪れた東芝のサービスマンによって、白いノイズが連続的に発生していることと、サービスマンが持参した東芝製の旧型VHSビデオデッキ(S-VHS簡易再生機能付)では当該ビデオテープを再生してもノイズが出ないことを確認していた。後になって、この無断改修について、東芝の関係者はある雑誌の取材に対して「10万円相当のカスタマイズを加えた」など、過剰に手厚いと思われる対応をしたとほのめかしたが、実際にはユーザー側がホームページ上で公開した改修個所の画像で、数百円の部品をハンダ付けで追加しただけであることが明らかとなった。

また、その修理状況も雑なものであった。さらに、東芝側は当該のユーザー自身には「画質をソフトにする改修を行った」とか「旧型機種と同等の回路に変更した」など、明確に説明していなかった。東芝のサービスマンが最初に訪問修理に訪れた時、比較用に持って来ていた旧型機ではノイズが発生しなかったのも事実である。「原因を知らせてもらえないまま無断で改修された」というクレームを行った同ユーザーに対して、東芝側が、顧客に対する内容とは思えない不適切な発言をするなど、いささか常識の範疇を逸脱した様子がマスメディアによって報じられた。なお東芝側はこの問題に関して、同社製品の売上減少という事態を重く見て、副社長自ら、担当者が不適切な発言を行った事に対する公式謝罪を行っている。

問題の暴言は、渉外監理室と呼ばれる部署で発せられた。この渉外監理室は、東芝が1997年総会屋への利益供与で摘発されたことを教訓とし、総会屋対策として設置されたものである。部署の性格上、警察・検察OBが多くいて、暴言を発したのもそういう人物といわれている。[5]また、当時東芝のビデオ事業はシンガポールにあった子会社、東芝ビデオプロダクツの日本法人、東芝ビデオプロダクツジャパン株式会社(東芝から見れば孫会社)が行っていた。同社は東芝本社ビル内に本社があったが、現在は東芝ビデオプロダクツ共に清算されている。

企業側の視点から

同ユーザーは、2万円程度のS-VHS簡易再生機能を有するビデオデッキを家電量販店で購入し、他社製のビデオデッキで録画したS-VHSテープでノイズが発生することに対して問い合わせを行った。しかし調査の結果、ノイズの発生原因はFM周波数がS-VHSの規格に適合しないユーザー所有のテープであり、ビデオデッキ本体に何ら問題はなかったと判断した。

それでもなお特例としてノイズを抑える改修を施すべくノイズ原因を探っていると、同ユーザーは突如、「正常に使えるような状態にしてほしい」という書面とともに東芝本社社長宛にビデオデッキ2台を送りつけた。東芝は困惑しつつも送られてきたビデオデッキに対する改修を終え、画質をチェックしたうえで返送し、技術的説明を行った。しかしユーザーは返送されたビデオデッキを開封しないまま、今度は東芝ビデオプロダクツ社長に送りつけた。なお、ユーザーはインターネットフォーラムにて、約2ヶ月後の3月6日に「今日になって改修後、初めて使ってみた」と投稿している。

通常の顧客対応では困難と判断した東芝は、渉外監理室に対応を引き継いだが、その中である担当者の対応が問題の発言へと繋がった。後の7月下旬に東芝は不適切な発言があったことは認め、その理由として、たまたま昼休み時間中で担当者が2名しかいなかったと説明し、副社長がホテルで直接会った上で謝罪している。

謝罪までに、ユーザーは6月上旬から問題発言の録音を特に注視させるウェブサイトを作成し、東芝に対する批判を強めていた。ウェブサイトはビデオデッキが欠陥機種であるかのごとく中傷したり、その他の顧客対応についても、あたかも全社的に前述の不適切な顧客対応を行っているかのように非難するなどの一方的な内容であった。

東芝側は当初、顧客と自社の問題であるとして自社のウェブサイトを含め、一切の対外情報を出さずにユーザーに対して辛抱強く面会を申し入れたが、ユーザーは一ヶ月以上面会を拒み続け、しかしウェブサイト上での中傷を加え続ける一方であったため、やむなくウェブサイトの一部差止めを求める仮処分を申請した。

事件は逆に仮処分で炎上してしまう。東芝が法的措置を執ったことで、それまでは記事として取り上げなかった新聞や雑誌など旧来からのマスコミでも事件が取り上げれた結果、当時はまだネットを利用していなかった層にも一気に事件が周知されることになり、世論に企業が屈する形になり申請は取り下げられた。

事件の影響

企業にとっては、新しい時代に対するクレーム対応の教訓となり、他の業種にも強い影響を与えた。「コンプライアンス違反である」「無理な改修は行わず、商品と同額返金などの常識的な対応を徹底する」など、社内でのお客様情報の共有が進んだ。

当事者である東芝はサポート体制を充実させ、問題が発展する前に適切に処理する体勢を発展させた。正当な要求には素早く応え、不当な要求にはきちんとした対応を行うようになったという。これにより、後年東芝のサポートは顧客満足度調査において上位にランキングされるに至った。

インターネットのコミュニティにおいては、当時の大手匿名掲示板だったあめぞうが不調だったことから、開設して間がなかった匿名掲示板の2ちゃんねるがこの事件を扱う特設掲示板を設けてアクセス数を伸ばし、その後の2ちゃんねるの躍進の足がかりとなった。

類似事件

東芝クレーマー事件の後、同年に始まった長崎県の医師による東芝内視鏡告発事件では、東芝側が、ユーザー側に内視鏡の不具合による債務不存在を求める民事裁判を起こしユーザーが敗訴する結果となっている。しかしながら、この東芝製内視鏡が「本来曇ってはならない状況下で曇って検査部位の視野を失う」という事実は複数の医師によって確認されており、東芝を告発した医師を支援する団体が複数の医師らによって組織され声明文が公表された。この事件は医師という専門家や弁護士など多くの関係者によって声明が出されても、ネットで炎上しないと言う結果になった。

関係者のその後

この事件の一方の当事者であるユーザーの「A」は、その後の顛末を2008年の『週刊ダイヤモンド』でインタビュー取材を受けて、母親や母親の会社がインターネット上で中傷を受けたことや、東芝のDVDレコーダーや携帯電話を購入して、東芝のアフターサービスに満足していることを語った。また、謝罪した町井徹郎副社長は2004年10月4日に鬼籍に入った。当時の東芝の西室泰三社長は2005年6月に東京証券取引所取締役会長に就任した。

関連書籍

脚注

  1. 藤竹暁編著『日本のマスメディア[第二版]』日本放送出版協会、2005年、p.280。
  2. 「報復 東芝への苦情電話で暴言を浴びせられたユーザーの「一矢」」『週刊ダイヤモンド』1999年7月10号。
  3. 前記『週刊ダイヤモンド』1999年7月10日発行後、あとを追って大手新聞各紙が次々と「暴言」を報じた。
  4. 4.0 4.1 4.2 「Interview 大企業を動かしたネットの力「東芝クレーマー事件の意義」」『週刊ダイヤモンド』2008年1月26日号。「特集 恐怖のクレーマー お客様は「神様」か「怪物」か」内。
  5. 「全証言 東芝クレーマー事件」より